司法試験予備校による「金太郎飴答案」に対する反省として、法科大学院と新司法試験という制度がスタートしました。
ところが、予備校と法科大学院とで指導方法が異なるためか、受験生の中には「どのような勉強をすればいいのか」という不安を抱えていたり、「法科大学院の授業は役に立たない」という認識を持っていたりする方もおられるようです。
そこで、今回は、憲法論文の流儀の『特別篇』として、新制度における「あたらしい憲法勉強法のはなし」をテーマに、私が元受験生の立場として感じていたことを中心に、東京大学法科大学院の宍戸常寿先生に、司法試験論文問題の具体的な論じ方や、そのための判例や学説の勉強方法などについてお伺いしました。
この対談の中には、みなさんが抱いているであろう疑問に対する答えや、合格に必要なエッセンスがギッシリと詰まっています。
また、大学や法科大学院の授業をより有効に活用するためのヒントがきっと見つかるはずです。 (伊藤たける)
宍戸 常寿(George Shishido)
東京大学大学院法学政治学研究科教授。1974年東京生まれ。1997年3月東京大学法学部卒業。東京都立大学法学部助教授、首都大学東京社会科学研究科法曹養成専攻助教授、一橋大学大学院法務研究科准教授などを経て現職へ。
著書は『憲法 解釈論の応用と展開』(日本評論社)、『憲法学読本』(共著、有斐閣)、『憲法演習ノート』(編著、弘文堂)、『18歳から考える人権』(編著、法律文化社)、『現代社会と憲法学』(編著、弘文堂)など多数。 特に『憲法 解釈論の応用と展開』は憲法の参考書として小山剛著『「憲法上の権利」の作法』(尚学社)、木村草太著『憲法の急所』(羽鳥書店)とともに、多くの受験生の支持を得ている。
伊藤 先生は、様々な書籍や雑誌で、憲法学習等に関するご意見を述べられていますが、今回は、私の意見を交えつつ、お話を伺っていこうと思います。
さて、司法試験では判例を「踏み台」にした議論が求められる場合があります。これに対応するためには、どのように判例を勉強すればよいと思いますか。大別すると、①すごく分厚い教材を用いて判決文を1審・2審・最高裁と読むことで争点の変遷を分析するタイプと、②最高裁判例をひたすら読んでいくタイプ、あとは③判決文の抜粋しか読まないというタイプという3パターンがあると思います。
宍戸 いまおっしゃられた3パターンの勉強法の①は初期のいくつかの法科大学院で実践されていた方法ですね。最後の③判旨の要約─判例六法に載っているような判旨に理由付けを示した論証を頭に入れる─というのは旧司法試験の勉強パターンですね。
憲法に限ったことですが、今の司法試験の出題のしかたを念頭において言えば、③のやり方で、判例の規範とその簡単な理由付けの部分だけ分かっていても、目の前の新しい事案に対し、判例を「踏み台」にしながら利用するというのは、大変難しいだろうと思います。
その意味で、判例の事案についてしっかり読んでいくことは当然必要になります。ただ一方で、受験勉強上・学習上のコストの問題もあると思います。①の1審・2審・最高裁まで全部の判決文を読むというのは、非常にコストがかかります。そういう訓練はある程度必要だと思いますが、すべての重要な最高裁判例についてそれを行うというのは、私は非常に難しいと思います。いくつかの重要な判例、あるいは争点が訴訟の中で変わっていった判例、具体的事実関係を生かして憲法判断をした裁判例については、1審・2審・最高裁まで読んでいく価値がある。そうでないものについてはそこまで読む必要はないと思います。
事実関係が生きるという意味では、具体的には、愛媛玉串料事件(最大判平9・4・2民集51巻4号1673頁[百選Ⅰ48])や、国家公務員法事件(最二小判平24・12・7刑集66巻12号1337頁[百選Ⅰ14])、エホバの証人剣道受講拒否事件(最二小判平8・3・8民集50巻3号469頁[百選Ⅰ45])、これらは具体的な事実関係と判例理論の運用の在り方が非常に問題となっている事例です。こういった裁判例については、機会を持って1審・2審・最高裁までしっかり読んだほうがよいと思います。これら以外の判例までということであれば、それはどれだけ他の科目との関係で憲法に時間を割けるかによると思います。
伊藤 1審から読まないタイプの判例であっても判旨だけでは足りないわけですよね。私は、学生に対しては、最高裁の原文を読んでほしいと指導しています。もちろん全ては無理なので、重要なものだけは読んでほしいと。
伊藤 私は、主張反論の組立て方のヒントは、実は、判例にあるのではないかと思っています。最高裁が違憲判決を書くときには、国側の主張について、後に国会で議論されることを想定したような判決を書いています。そこから争点が浮かび上がってくるのではないかという印象を持っています。そのため、重要な判例は、漫然と読むのではなく、主張反論でどのように使っていけるのか、という観点から読むことをおすすめしているのですが。
宍戸 まったくその通りだと思います。最高裁の判例もそうですし、地裁レベルでもそのような判例はありますね。そういった判例は非常にていねいに、違憲の可能性に関する部分と、それに反論する先例に即して答えを示す部分がしっかりと分厚く書かれています。しかし、司法試験問題の最後の部分は「あなたの見解」として書くところですから、違憲を主張する側と反論する国側で、あるいはこの法律の規定の合憲性を主張する側とそうでない側とで、主張がどのように判決理由のなかに現れているのか、どう構成されているのかを、読み解き、分析して書き起こす、ということが必要だと思います。
伊藤 それらは先生の講義でも学生さんにさせているのですか。
宍戸 学生たちが判決文を読んだ上で「この事件の憲法上の問題とはなんだったのか、議論すべき論点はなんだったのか」ということの拾い上げの確認は必ず質問するようにしています。さらに時間があれば、そのなかでどれが一番決定的な論点として扱われたのか、論点同士の取り上げられた主張や違憲とする側の議論や、複数の対立する点がどう絡み合っているのか、ということの整理作業はやるようにしています。
伊藤 そういった分析を通じていけば、すくなくとも判例を「踏み台」にすることができると、ちなみにこの「踏み台」というのは、機動戦士ガンダム第24話「迫撃! トリプルドム」のオマージュなのですが。
宍戸 分かります(笑)。
伊藤 (笑)。判例を「踏み台」にすれば、主張・反論型の論文問題には対応できるであろうと思っていますか。
宍戸 ひとまず、いわゆる規範の部分ではできるだろうと思います。ただ、事実関係の部分については違う訓練が必要かもしれないですね。
伊藤 他方、平成18年や21年の司法試験の問題などのように、判例を「踏み台」にしにくい問題では、どのように議論を組み立てるのか、ということを伺いたいと思います。私の印象としては、判例不在の領域については、権利の特定をし、学説の理由付けをまず検討した上で、そこに学説が適用すべきであると主張する判断枠組みや理由を述べる。そして、今回の事案のその理由が妥当するのかしないのかというところが争点になると思っています。
宍戸 試験問題としてはそうなりますし、そういう記述をしてほしいということだと思います。他方、試験問題を出題する側のイメージで言いますと、判例がない分野で出題するときには、学説の理解、その応用力を見ているでしょう。「一体これは教科書で書いてある記述のどこに関係する問題なのか」というのがわかるかということです。試験の時間が短いわけですから、そのなかで「このあたりだな」と探り当てる能力が、受験生目線からは必要になると思います。
残念ながら、ウェブ掲載ができるのはここまでです。
とはいえ、せっかくの機会ですから、対談のトピックだけを紹介しましょう。
気になる対談の続きを読めるのは、受験新報2016年2月号(780号)(法学書院、2016年)だけです!
受験新報は、伊藤たけるの連載「憲法 論文の流儀」だけでなく、アガルートアカデミーの工藤北斗先生・内藤慎太郎先生による「論文答案の書き方講座」、研究者の先生方による「誌上添削教室」などが掲載された法曹志望者の総合情報誌です。
これ以外にも、司法試験の合格体験記や、ロースクールでの日常生活がわかる「ロースクールたより」、実務家による連載「裁判官室の窓」(裁判官)、「秋霜烈日」(検察官)、「弁護士の雑記帳」(弁護士)、「ある書記官の調書ファイル」(裁判所書記官)などなど、受験から合格後までを手に取るように理解できる有益な情報が満載です!
お得な年間購読(予約購読)もありますので、是非ともご検討いただければ幸いです!
なお、当サイトの「外部サイトへ行く」ボタンから、外部サイトで購入することができます!
大人気の「憲法の流儀」は、今回の対談で示されている勉強法を実践している講義です。
憲法の流儀は、こんな方にオススメです!
詳細はこちらからご覧ください!
慶應義塾大学法学部政治学科卒業
慶應義塾大学法科大学院修了
新司法試験合格(公法系16位)
国家公務員Ⅰ種(法律職)試験合格
司法修習生考試(二回試験)は全科目「優」で修了
ウィズダムバンク株式会社代表取締役
主に公法系を担当。
かつて伊藤塾にて「憲法 論文の流儀ゼミ」当初20名×2クラスで募集したところ応募者が殺到。
最終的には,30名×3クラス,インターネットクラスの開講に至る。
平成25年合格者は,公法系8位,10番台等,2桁合格者を輩出。
「憲法答案も普通の法律答案と同じである」として,各地の大学,法科大学院にて講演会を開催。